Vol.6

タイルのある部屋に憧れて

タイルのことが気になり始めたのは、いつからだろう。「いいな」と思った物件のバスルームが青いタイル張りだった頃からだろうか。そのもっと前にも、好きなホテルのバスルームに花柄のタイルが張られていて、やっぱり「いいな」と思ったことがある。家以外でも、モスクにタイルが張られているのなどは、やっぱりものすごくいい! とずっと思っていた。タイルは私にとって、問答無用で「好き」なものだ。
でも、その「好き」のあとにはいつも「でも、お高いんでしょう?」という気持ちがついてくる。だって、あんなのお高そうじゃないですか……。一枚ずつ張るんですよ? 一枚いくらなのかもわからないし、それを張る手間賃もいるだろうし、それで壁とかかなりの面積を埋め尽くすとなると……無理じゃない? という思いがあった。

「タイルをもっと、インテリアとして生活の中に身近に取り入れられるものだと実感してほしいんですよ」
Tile Style深大寺を訪れた私に、タイルスタイリストの上野さんはまずそう言った。
Tile Style深大寺は、もともとは2007年にタイル専門のショップとしてオープンした。それが今年リニューアルされ、5月に再オープンしたばかりだという。店内は床にも壁にもタイルが張り巡らされ、「壁に、床にタイルを取り入れるって、こんなに雰囲気が変わるものなんだ……」ということが、一目で体感できるようになっている。
リニューアルしたのには、「タイルショップ」としての形態に限界を感じたところも大きいと上野さんは語る。
「かわいいタイルを、鍋敷きやちょっとした小皿代わり・絵のように飾るために雑貨として数枚買っていかれるとか、そういうのももちろんタイルの楽しみ方のひとつ。でも、タイルってそのものだけでは『半製品』なんですよ。実際に壁や床に連続してきれいに張り、面となることによって製品として活きてくる。年々インテリア性の高いタイルも出てきていますし。外装用のタイルをインテリアに使ってもいいし、とても自由なんです。だから、実際に張ってもらうこと、もっと生活の中に取り入れることを現実的に考えてもらえるような場所にしたかったんですよね」

私は、もしモチイエを持ったら、タイルは絶対張りたい派である。なので、長年の疑問「でもお高いんでしょう?」を上野さんにぶつけてみた。
「みなさんそう思われているのですけど、タイルを張るのって女性の感覚で言うなら『カーテンを選ぶ』『バッグや靴を買う』に近く、気に入ったモノを手に入れる、という感じかなと思うんです。タイルは嗜好品ですし、価格は価値観によって違うので一概に「高い」「安い」とは言えないのですが、例えば気に入ったタイルが予算に合わなければ、タイルの数量を減らしてクロスや珪藻土など他部材と組み合わせたり、施工範囲をデザインで小さくする・似ている商品をご提案するなどで予算内に収めることも可能です。それに、最近は自分で張ることを楽しまれる方も増えていますよ。」
「えっ、ズレたりして難しくないですか?」
「いえ、小さめのタイルでしたらこういうふうに、シートで張れるようになっているんですよ。DIY教室で張り方をお教えしていますし、工具の貸し出しもしています」

このタイルはいくら、とお値段を聞いていると、確かに無理なお値段ではない。例えばこちらのかわいらしい形のタイルは、相談しながらカラーをMIXさせてオリジナルシート(約30cm×30cm)がつくれるのだが、1000円台から可能だそうだ。

バスルーム以外でも、例えば壁の一部に二列だけタイルを張るとか、そういう使い方もできそうだし、そのくらいなら、自分で張るのもできるかもしれない。
「女性が長く居るキッチンや洗面室、ホッとしたいトイレもタイルで遊ぶにはおすすめの空間です。無地のクロスから少し冒険してタイルを取り入れて、家の中にお気に入りの空間をつくっていくことで、暮しが豊かになります。簡単に拭くことができますし、実はお掃除も意外と楽なんですよ。」
上野さんは、タイルの話になると目だけじゃなく表情が輝く。パッと光がさすようにわかりやすく変わる。お仕事スマイルじゃない。もう、本当にタイルが好きなんだなぁ、というのがビシビシ伝わってくる。
「でも、こういう話をトータルでできる場所がないし、場所がないからみなさんタイルに対して敷居が高い印象を持ったまま、行動に移そうとなかなか思ってもらえないんです。
タイルの流通というのは、メーカーがタイルを作り、また、商社が海外から輸入する。それを『特約店』と呼ばれる問屋のような場所に卸して、工事をする工事店がそこから買うという流れになっているんですが、その工事店さんで初めて実際にお客様とお話しされるわけですよね。デザインや商品がそちらでの提案のみで決まってしまうところがあり、お客様もそれ以外の選択肢をどうやって探せばいいのかわからない。そういった現状に対して、もっとトータルでタイルのご提案ができる場所が欲しい、と思ったのが、Tile Style深大寺という場所を作ったきっかけです」

確かに言われた通りで、自分好みのタイルを張りたいと思っても、正直ネット検索以外で探す方法が考えられない。ネットでタイルが売っているのを見つけたとしても、それが重量的にどうで、どのくらいの枚数必要で、とかそういうことはわからない。実物に触れられて、「やっぱりこれがいい」というものを選ぶのも難しいし、それを使う工事を実際にやってください、とどこに言いにいけばいいのかもわからない。そうした「どうしたらいいんだろう?」の相談にトータルで乗れる場所として、上野さんはこの場所を頼りにしてほしいと言う。

「雨宮さんに、ぜひ見ていただきたい場所があるんですよ」
そう言って、案内されたのは3階だった。階段を上っていくと、そこには全面モザイクタイル張りのジャグジー、洗面所、トイレがあった。モザイクタイルで花の模様が描かれている。
「なんですかこれ……!!!」