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「モチイエ女子」、ありだと思う。

つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。

いったい誰がそんなことを決めたんだろう。

女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?

そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。

家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。

そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。

モチイエ女子web

お知らせ

モチイエ女子webにて、エッセイなど多数寄稿いただきました 雨宮まみさんがご逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。 感謝と哀悼の意を込めまして、これまでの雨宮さんの作品、およびご出演いただいたコンテンツは、このまま掲載させていただきます。 どうか、ご愛読いただけますと幸いです。

理想の部屋まで何マイル?

雨宮まみの大人気連載、第2シーズンは
「女が、ひとりで暮らすこと」を考えます。
ひとり暮らしの人はもちろん、“ひとりの時間”を過ごす、
すべての女性にそっと寄り添う“暮らし”エッセイ。

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理想の部屋まで何マイル? MILE 11

やりきれないとき

あ、もう春かな、という、緑の匂いを含んだ風が吹き始めた日があった。三月のことだ。窓を開けていられる気温になったことが嬉しく、私は窓を開けていた。ごうごうと部屋を吹き抜ける風が気持ち良かった。
お茶でも淹れようかと思ってキッチンに行ったそのとき、ごん、と鈍い音がした。
おそるおそる部屋に戻ると、窓辺に置いていたパキラの大きな鉢が、なんと強風で吹き飛ばされて床に落ち、見事に割れていた。枝は折れていないが、落ちた側の葉の茎が全部折れている。
やってしまった。風の音がすごいと思ったときに、気をつけるべきだったのだ。でも、まさか風で、重い鉢が吹き飛ばされるなんて……。そんなことを考えても、割れた鉢がもとに戻ってくれるわけではない。土は散らばり、根が露出している。葉だけじゃなく、鉢が割れた衝撃で根も折れているだろう。せっかくの爽やかな休日が、この鉢の後処理で潰れそうな予感に心が暗くなる。

「わー、やっちゃった!」と声に出して言えたら、そして「あーあ、だから移動させておけばよかったのに」と言ってもらえたら、どんなにいいだろう、と思ってしまった。文句を言ったり言われたりしながら、この鉢を二人で片づけ、どうするか相談できたらどんなにいいか。大きな鉢はなかなか売ってないし、売っていてもかなりの重さになる。持ち帰るのが大変だから、これまではネットで注文してきた。けど、これは今なんとかしないといけない。間に合わせのプラスチックの鉢をどこかで手に入れて、あとでいい鉢を探すか、それとも今すぐ鉢を買いに遠出するか。どうせ、そろそろ植え替えを考えたほうがいい時期だったんだし、と前向きに考えようとしても、土まみれになった床を見ると溜息が出る。
鉢が割れたことで、それまで張りつめていた糸が切れてしまったようだった。 どうして、ひとりで暮らしているんだろう。

もともと、植物を育てることが好きだったわけではない。育てたこともなかったし、苦手だと思っていた。
よく、独身女性の荒んだ暮らしの象徴として「たまにしか水やりをしなくていいサボテンですら枯らしてしまった」という場面が描かれているのを見るが、まさに小さなサボテンを枯らしたこともあった。霧吹きで水をあげるだけのエアプランツも、しぼんだようになって枯れてしまった。もしかしたら、根気よく世話をすればまた育ったのかもしれない。でもその余裕がなかった。

理想の部屋まで何マイル? MILE 11

パキラがうちに来たのは、友達の好意からだった。私の初めての本が出たときに、友達がお祝いにパキラの小さな苗をくれた。手のひらに乗るようなかわいらしいパキラが、陶器の卵のような容器から幹を出し、6枚にわかれた葉を拡げていた。
「このパキラのように、根をはり、大きな葉を拡げてください」
そんなメッセージカードがついていた。とても嬉しいプレゼントだった。
パキラは、初心者向けと言われる観葉植物だ。それでも、「このパキラのように」と言われると、これを枯らしてしまうのはかなり縁起の悪いことに思えた。最初は「このくらいでいいんだろうか」とおそるおそる水をやっていたら、新しい芽が出てきた。窮屈そうに見えたので、私は陶器の卵を割り、鉢に植え替えた。それから何度か植え替えを繰り返し、15cmほどだった苗が、1m近くまで育っていった。その間に、私は本を4冊出した。
育てることに自信がついて、もうひとつ鉢植えを買った。エバーフレッシュという、合歓の木の一種だ。これもかなり育てやすいと言われているもので、夜になると葉が閉じる。家に閉じこもっていることの多い仕事だから、葉が閉じたり開いたりする生き物の気配が部屋の中にあるだけでも心の慰めになった。

そんないきさつのある、私にとっては初めての植物、パキラをこのまま放置しておくわけにはいかない。このまま折れたからと諦めることはできないし、なんとかしないとこんな土まみれの部屋で過ごすわけにはいかない。処置が遅れて枯らしたりしたら、縁起だって悪い。すでに今、葉が折れただけで落ち込んでいるのに、そんなことになったらどれほど落ち込むことか。
私は元気をかき集めるようにして、なんとか家を出て商店街に向かった。確か、何十年前から置いてあるかわからないような古い鉢を扱うお店があったはずだった。
店に入ると、いつも店番をしているおばあさんと、その娘さんだと思われる人がいた。
「いらっしゃい。何探してるの?」「いや、鉢を……大きめのを」「植え替え?」「いえ、さっき風で倒れて割れちゃって」「えー! 大変だねぇ。今日は風強いもんねぇ。外に置くの? 部屋の中?」「中です」「あー、じゃあ、こんなに素っ気ないのは嫌だよねぇ。部屋の中に置くなら、お洒落な鉢じゃないとね」。娘さんらしき人が、白いプラスチックのプランターを指す。確かにこれは嫌だ。店の中をくまなく見ていくと、素焼きに凹凸で模様がつけてある、かなり大きな鉢が目に入った。
「これ、いいですね」「あー、これ、いいでしょう。でも高いよ~。5800円」「でも、これがいちばんいいです」「じゃあ、これにする? すぐ要るよね。ひもをかければ持って帰れるかな」。娘さんらしき人が、店番のおばあさんに声をかける。「この人、さっき鉢が割れちゃったんだって。かわいそうだから5500円でいいよね?」。てきぱきと持ち帰り用に鉢にひもをかけてくれるその人を見ていたら、なんとなく、気持ちが晴れていった。そう、部屋に飾るんだから、お洒落な鉢じゃないと。古ぼけた、失礼だがあまりお洒落とは言いがたいお店の中で、そんないきいきした思想と思いやりに触れて、私は5500円を支払い、手に食い込むひもを握りしめながら家に帰った。
土を集め、新しい土を足しながら、大きな鉢にパキラを植えてみた。折れていた葉を全部切ったので、片側だけ全部葉がなく不格好だったし、なんとなく葉の元気もないように見える。水をやり、散らばった土と割れた鉢を片付けると、なんだか最初からそこにあったもののように、大きな鉢に植わったパキラは部屋にとけこんでいた。

文=雨宮まみ

雨宮まみ

ライター。編集者を経てフリーのライターになり、女性としての自意識に向き合った自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を上梓、「こじらせ女子」が2013年度の新語・流行語大賞にノミネートされる。 著書に、対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(ベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)など。

プロフィール写真=松沢寫眞事務所 / イラスト=網中いづる

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