![モチイエ女子 住にまつわる楽しいコンテンツ](../../common/images/nav_top_head_1.png)
つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。
いったい誰がそんなことを決めたんだろう。
女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?
そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。
家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。
そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。
モチイエ女子webにて、エッセイなど多数寄稿いただきました 雨宮まみさんがご逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。 感謝と哀悼の意を込めまして、これまでの雨宮さんの作品、およびご出演いただいたコンテンツは、このまま掲載させていただきます。 どうか、ご愛読いただけますと幸いです。
“なんとなく買ったもの”に囲まれた毎日を抜け出して、
愛着溢れる“理想のお部屋”で生きていきたい。
そんな女性に送る、雨宮まみの情けなくも前向きな
“暮らし”エッセイ。
日本の、と、大きなくくりでものを言うのははばかられますが、言いたい。日本の部屋着はいったい、どうなっているんですか!? と。
いや、日本の部屋着がだめなわけでは決してないんです。素敵なものもたくさんある。けれど、普段着るいわゆる「外出用」の服が、これだけバリエーション豊かで、さまざまなスタイル、素材のものが、高いものも安いものも揃っているのに比べると、部屋着はものすごく遅れを取っているように思える、わけでございます。
豊かな生活、と聞いてイメージするものが、麻の部屋着だった頃がある。白い麻の、長袖のワンピース型の部屋着。胸元にピンタックのある素敵なものを買ったこともある。そりゃあもう、なかなかにたいしたお値段だった。さらに夏用に、スリップ型で裾が床につくほど長い、たいそうロマンティックな、やはり白い麻の部屋着を買ったこともあった。これまたたいそうなお値段で、買うのはかなり勇気が要った。「映画に出てくる女優さんみたい!」と思ったし、それを着たときは最高の気分だった。上等の麻なので、肌触りも良かった。
しかし、麻というのはしわができるものである。洗濯時にのばせば良い、という話もあるが、裾が床につくぐらいの、ドレスのようなものに、洗いざらしのしわは似合わず、アイロンをかけるはめになった。そして、白だから、さらに、いいお値段だから、夜中にお腹がすいても、カレーうどんなどを食べたりするわけにはいかない。形は文句なく美しいが、夏場に肩を出した部屋着で寝ると、肩こりが悪化するということもあり、私はその美しい部屋着を、だんだん着なくなってしまった。
長袖のワンピース型のほうは、もう少し着やすかったが、足元がスースーするので下にルームパンツかレギンスを履かないと少し寒かったし、そこで適当なものを合わせてしまうと、白い麻の高級感が台無しになってテンションが下がりまくってしまった。
この「白い麻へのチャレンジ」は私の中でけっこう長いこと続き、短めのローブ型のものなども試したのだが、やはり「アイロンをかけないと、寝起きのしわがだらしなくて見られたものではない」とか、「着たまま家事をすると、どうしてもしみができてしまう」とか、「温度調整をするには、他のものと組み合わせて着る必要がある」とかの問題がなかなか解決せず、うちの定番にはなっていない。
麻ブーム以前には、シルクブームというのもあった。子供の頃、シルクのパジャマとか、シルクのスリップといえば大人の象徴で、ああいうものを普段、寝るときなどにさらりと着られる人になりたい、という憧れがあったのだ。
しかし、シルクというのは、これまた洗濯するとしわができる。それに、肌触りはわりとひんやりするというか、肌につかず離れずな感じになりがちだ。安いシルクのパジャマを何度か試したあと、私は刺繍の入ったシルクの長いローブをコンランショップのセールで入手し、また「映画に出てくる女優さんみたい!」とひとり悦に入っていたが、いくら素敵とはいえ、人前で着るとドン引きされそうな気もするし、ライターの家というのはやたらと宅急便が来るので、まさかそんなしどけない(さらにすっぴんでだらしない)姿で玄関に出るのはためらわれる。結局、これは春夏の、お風呂上がりに汗がひくまで着るローブとして使うようになり、今でも活躍しているのだが、やはり部屋着の定番とは呼べない存在である。
では、何が定番になっているのか? というと、鉄板でおすすめできるものが見つからない。
私は自宅で仕事をすることが多いので、下手すると部屋着のまま、一度も外に出ずに一日を終えることもある。外出用の服を着ている時間よりも、部屋着を着ている時間のほうがよっぽど長いのだ。そのことに気がついたとき、私は部屋着を見直すことにした。
いかにも寝間着、みたいな感じではなく、ちょっとコンビニに行ったり、せめて宅急便を受け取れるぐらいの感じで、着心地が楽で、きばらずに着れて、洗濯でへたりにくいもの。そういうものがいいな、と考えながら手持ちの部屋着を見直すために全部出してみると、その場で気絶したくなった。
そこにあったのは、着なくなった普段着を部屋着に、と払い下げたものや、あたたかさ重視で買ったおかしな柄のルームパンツ、靴下。外では着れない変なTシャツ、安いから買ったショートパンツ、外では着れないけど楽しい気持ちになるかなと思って買った派手な色柄のものと、シックな生活に憧れて買った落ち着いた色味のものが混在し、これ全部洗濯機に入れて回したらグルグル回ってすごい色のバターになってしまうのではないか……と思うほどであった。
で、ここで冒頭の「日本の部屋着はいったい、どうなっているんですか!?」に戻りたい。常に、そんなに高くなく、それなりに素材に耐久性があって、着ている姿がふと鏡に映ったときにガックリ来ない程度の部屋着を探している私だが、目につくのは「すごい柄の部屋着」が圧倒的に多いのである。白とかグレイとかベージュとかの、落ち着いた無地のものはおおむね素材が良すぎてかなり値が張るし、そこそこのお値段で探すと、無地率がガクンと低下する。柄ものでも、好みであればいいのだが、上下セットになっていないものだと、もとからセットでないものを組み合わせるのはそこそこ難しい。やっぱり、全体的に「こういう方向性でいこう」と決めないと、まとまってくれないのだ。
そんな私の家には、今年導入した裏起毛の黒、グレイ、ネイビーのロングワンピースと、チェックの着る毛布、そしてあったかすぎて捨てられない、ジェラートピケ風のパステルカラーのボーダーのふわふわのガウンが混在している。せめて、誰か泊まりに来たときにお見せできる姿になりたいのだが、道はまだまだ、遠い。
ライター。編集者を経てフリーのライターになり、女性としての自意識に向き合った自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を上梓、「こじらせ女子」が2013年度の新語・流行語大賞にノミネートされる。 著書に、対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(ベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)など。
プロフィール写真=松沢寫眞事務所 / イラスト=網中いづる