![モチイエ女子 住にまつわる楽しいコンテンツ](../../common/images/nav_top_head_1.png)
つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。
いったい誰がそんなことを決めたんだろう。
女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?
そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。
家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。
そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。
モチイエ女子webにて、エッセイなど多数寄稿いただきました 雨宮まみさんがご逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。 感謝と哀悼の意を込めまして、これまでの雨宮さんの作品、およびご出演いただいたコンテンツは、このまま掲載させていただきます。 どうか、ご愛読いただけますと幸いです。
雨宮まみの大人気連載、第2シーズンは
「女が、ひとりで暮らすこと」を考えます。
ひとり暮らしの人はもちろん、“ひとりの時間”を過ごす、
すべての女性にそっと寄り添う“暮らし”エッセイ。
年末年始は、帰省して家族と過ごす、というのが恒例になっていた。自分の仕事場でもある東京から少し離れて気分を変えたいというのもあるし、こういう機会でもなければ、なかなか用事もないのに実家に顔を出さないということもある。
18歳で上京したときには考えもしなかったが、東京で仕事をしているということは、もしかしたらもう二度と、親と一緒に暮らす日々は帰ってこないかもしれないということだ。その可能性に思い至ったとき、まぁ、年に一回ぐらいは顔を見せておこう、と思うようになった。
けれど、年末年始の帰省というのはなかなか難儀なものである。空港は混雑しているし、出版の世界では12月は年度末なんかより余程忙しい。もう無理、今度こそダメかもしれない、という締め切りをなんとかクリアして、完全に燃え尽きたところで荷造りをして出発、というのは、けっこうしんどい。行く先が香港とかバリ島とかだったら喜びいさんでサクサク荷造りぐらいやってのけられるが、まぁ、実家である。帰省というのは、旅行とは違うので、嬉しくないわけではないけれど、そんなに胸躍るものでもないのだ。
あるとき、ひどい風邪にかかってしまい、飛行機のチケットを取っていたのに帰省ができなかったことがあった。キャンセルし、家でぼんやりと寝た。「笑ってはいけないシリーズ」と紅白歌合戦をチラチラ見つつ、年越しの吉本の番組(長い)を録画せずに心おきなく観られるのが嬉しいな~と思ったりした(実家で夜遅くまで起きていると、なんやかんや言われるのである)。
それは、だらけて、気を抜いて、家にいることが好きな私には、最高の正月のようだった。基本風邪なので寝ているのだが、起きれば録画しておいた映画を観てみたり、去年読み逃していた本を読んでみたり、日頃おろそかになりがちなインプット作業も進む。誰にも邪魔されない。だらしないけど、極楽だと思った。
しかし、そんな毎日も三日、四日と過ぎていくと、なんだか頭も身体も濁ってくる。集中力は落ちて映画も本も頭に入ってこないし、風邪の症状は軽くなってきているのに、睡眠時間や食事が適当すぎて、起きていてもなんだかシャキっとしない。窓の外は見事な冬晴れの青空が広がっているのに、家でこんな過ごし方をしていていいのだろうか……。追い討ちをかけるようにSNSでは初詣に行ったとか、温泉に行ったとか、スノボに行ったとか冬休みをエンジョイする人たちの写真が続々アップされてくる。
家にいるのは、自分にとって最高の幸せのはずだし、家にいるのが嫌だと思ったことは、たぶん一度もない。けれどこのとき、私は家にいることに閉塞感を感じていた。家サイコー! 自分のだらしない正月サイコー! と思う気持ちよりも、「なんか正月だからって一区切りつけてる人たちのほうがすっきりしてそう」という気持ちが勝ってきた。
まだ多少、風邪の気配は残っていたが、マスクをし、厚着をして私は外に出た。目指すは芝大神宮だ。ここには、千木筥(ちぎばこ)というお守りがあって、「衣装が増えて、愛される」というご利益があるということになっている。服に関するお守りというのも珍しいし、何より実物がとてもかわいらしいのだ。
急な階段を上がり、お参りをし、千木筥を手に入れ、あまりお店が開いていないのでモスバーガーに入ってコーヒーを飲んだ。
たったそれだけのことだったが、まともな服を着て外の空気を吸い、欲しかったものを手に入れ、外で少しのんびりした、ということは、一日に大きなメリハリをつけてくれた。帰って来た家は、出かける前よりも「安らげる場所」としての存在感をはっきり示していたし、私は家への愛しさがこみあげてきて、そこから洗濯や掃除をバリバリこなしてしまった。年末にやり残していた細かいものの整理や、大掃除の残りもやった。
それからも、家にいることが好きなのは変わっていないし、外に出る用事がたてこんでいると疲れてしまう。けれど、外に出る緊張感や、外で得られる体験が、なんとなくどんより落ち込んでいる気分を振り払ってくれることも多い。無駄に出かけて疲れてしまうこともあるけれど、家でくつろいでいるうちにふといいアイデアが浮かんだりすることもある。
つい、私たちは「どちらが生産的か」というふうに考えてしまうけれど、私にはどちらの時間も必要だし、その緊張と弛緩の繰り返しの中にしか、本当に生産的な時間というのはないのではないか、と思ったりする。
外に出て、中のことを見直したり、中で落ち着いているうちに、外って楽しそうだな、と思えたり。外交をする自分と、内向的でいる自分の違いかもしれない。
どっちがいいか、なんて考えずに、疲れたら家にこもって、家の中で閉塞感を感じたら外に出て、そうして気分転換をしながら、自分を機嫌の良い状態にしておくのが、いちばんいいんじゃないか、と最近は思っている。実際は、出不精だからグズグズしている時間が長いのだけれど……。
ライター。編集者を経てフリーのライターになり、女性としての自意識に向き合った自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を上梓、「こじらせ女子」が2013年度の新語・流行語大賞にノミネートされる。 著書に、対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(ベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)など。
プロフィール写真=松沢寫眞事務所 / イラスト=網中いづる