つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。
いったい誰がそんなことを決めたんだろう。
女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?
そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。
家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。
そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。
モチイエ女子webにて、エッセイなど多数寄稿いただきました 雨宮まみさんがご逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。 感謝と哀悼の意を込めまして、これまでの雨宮さんの作品、およびご出演いただいたコンテンツは、このまま掲載させていただきます。 どうか、ご愛読いただけますと幸いです。
“なんとなく買ったもの”に囲まれた毎日を抜け出して、
愛着溢れる“理想のお部屋”で生きていきたい。
そんな女性に送る、雨宮まみの情けなくも前向きな
“暮らし”エッセイ。
私は、オープンとはほど遠い性格なため、部屋に人を入れることは滅多にない。そもそも、狭い家で仕事もしているため、部屋のあり方が完全に自分一人仕様になっていて、来客のためのくつろぎスペースがない、というのが実情だったりする。
家で飲む、みたいなことになれば、いただきもののコタツテーブルがあるので、それを出してくることになるのだけれど、それはうちではわりと大きなイベント。でも、そういうのではなく「近くまで来た友人にちょっと寄ってもらう」みたいな、軽く飲み物だけ出す程度のおもてなしができたらいいな、と思うことが増えてきた。年を経て、私も少しはオープンな人物に近づいているのかもしれない。
きっかけになったのは、もてなし上手の友人との会話だった。彼女はよく人の家にお呼ばれもしているし、自宅に人を招いたりもしている、私から見るともてなしのベテラン。彼女と話していて、蕎麦猪口の話になったとき、私が「蕎麦猪口はかわいいデザインが多くて、ついつい欲しくなるんだけど、お蕎麦や素麺のときか、あとはお湯呑みにしか使わないから、あんまりたくさんあってもねぇ」と言うと、彼女は「私はお客さんにおしぼり出すときとかに、冷蔵庫で冷やした手ぬぐい入れて使ってるよ」と、言った。
素敵だなぁ、と思ったし、そんな家にお呼ばれしてみたい、と思った。なんというスマートなおもてなしなのだろう。それを聞いて、いきなりそこまで完璧にできなくてもいいけど、「ちょっとお茶でも飲んでく?」と、軽い飲み物を出すぐらいのおもてなしが、気軽にさっとできたらいいな、と、小さな目標を立てました。
そんなこと、誰にだって簡単にできることのようですが、お客様用のティーセットはほとんど使うことがないので、いざ使うとなると「茶しぶとかついてなかったっけ?」と不安になったり、ワイングラスも曇ってるんじゃないかと思ったり……。やはり、慣れないことをするときに、堂々と自信を持って、というわけにはいかないもの。まずは滅多に使わないお客様用の食器のチェックから、私の「もてなし道」は始まった。
そして、意外に難しいなと思ったのは、飲み物の用意。親しい友人の好みは知っていても、例えば妊娠中でカフェインがだめな人もいれば、お酒が飲めない人もいる。何をどれだけ用意していればいいのだろう? たくさんあるに越したことはないけれど、誰も飲まないような無駄なものを用意しても……と悩むところ。
うちに常備されているのは、私が飲むコーヒー、ティーバッグの紅茶、緑茶。そこにいただきもののハーブティーや中国茶。それだけあれば温かい飲み物はなんとかなりそう。けれど、私は飲み物にお砂糖を入れないので、お客様用のお砂糖がなかった。なので、まずは個包装されたブラウンシュガーをお客様用に用意してみた。
お酒は、私はほとんど飲まないけれど、とりあえずビールが数本冷蔵庫に入っている。あとはワインが一本あればなんとかなりそうだ。酒豪の友人のために、強いお酒を一本用意しておくのもいいかもしれない。
いちばん悩んだのは、なんとお水。うちではブリタの浄水器を使っていて、自分では満足しているけれど、普段ミネラルウォーターしか飲んでない人にとって、飲みやすいものかどうか自信がない。そこまで悩まなくてもいいかもしれないけど、ノンアルコールの冷たい飲み物が、お水しかないのはちょっと心細い気がする。夏場ならアイスティーを作り置きしているのだが……。
自分も、冬場の乾燥する時期にちょっと冷たい飲み物を飲みたいときはある。ただ、あまり糖分をたくさん摂りたくないので、ジュース類を家に置かないようにしているだけなのだ。何か定番のものが家にあるといいのかも、と思った。
最初に思いついたのはガス入りのミネラルウォーター。これは私は大好き。だけど、飲めない人がいるのも知っている。味がほんのりついていて、甘過ぎないものがあればベストなのだが……と思っていたら、友人が、サンペレグリノのリモナータという飲み物を教えてくれた。
味はビターレモンソーダという感じで、それなりに甘さはあるけれど、自分で飲むときは水か炭酸水でさらに割ってもいいし、ビールをこれで割るとパナシェというカクテル(ビールをレモネードで割ったもの)に近い味になる。缶と瓶の2種類あるが、どちらもストックしておくのが苦にならないデザインだ。そして、気の効いたことに、缶のほうにはアルミ紙のふたがついている。ちょっとやそっと放置して、だらしないことにホコリをかぶってしまったとしても、このふたのおかげで注ぎ口が汚れることはない。買い置きしておくには最適だ。もちろん、レモン以外にもいろんな味がある。レモンは子供にはちょっと厳しい味かな? という気がするので、小さなお客様の多いお宅には、ほかの味をおすすめしたい。
というわけで、飲み物はなんとかなりそうになった我が家だが、問題はスペースである。仕事机しかないので、チェストの前に椅子を二脚置いて、チェストをテーブル代わりにしてお茶するか、もしくは床にクッションを置いて座りこみ、トレイをテーブル代わりにして床でお茶するか、の二択である。どちらも、あまり居心地がいいとは言えないのが非常に残念なところだが、せめてチェストの上にはものを置かないようにして、いつでもお客様歓迎の姿勢でいたいものである。まぁ、今現在、チェストの真ん前に化粧品が並んでいて、決して良い眺めではなくなっているのだが……。これから片付けることにしよう。
そして、今度は理想のお茶菓子を探しに出かけてみよう。保存が効いて、軽く食べられるもの。甘いものと、しょっぱいものの二種類あれば理想的だ。もてなし上手な人はどんなものを用意しているのか、こっそり覗いてみたいくらいである。
でも、大事にしたいことがひとつある。それはあまり背伸びをしないこと。もてなす側があまりに気合いを入れて、とっておきのものを出してくるとき、それは決してこなれたもてなしにはならないだろうし、もてなす側の緊張までお客様に伝わってしまいそうだ。重要なことは、お茶の味でも、お菓子のおいしさでもなく、気楽な雰囲気。そう、チェストか床でお茶するしかない私の家では、気楽な雰囲気がいちばん大事なものだ。「気を遣わせている」と思えば、お客様が恐縮してしまう。だから、無理はしない程度に、快適なおもてなしができればいいな、と考えている。
ライター。編集者を経てフリーのライターになり、女性としての自意識に向き合った自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を上梓、「こじらせ女子」が2013年度の新語・流行語大賞にノミネートされる。 著書に、対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(ベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)など。